僕らの夏は、一度きり

晶馬くんと苹果ちゃんの一度きりの夏。


晶馬くん目線でお楽しみ下さい。




~☆~☆~☆~☆~




うだる様な暑さが一日続いたその日の夕暮れ。

僕は神社の前で待っていた。

いつも僕をあちこちに連れまわすあの子を。



明日、夏祭り行こう!(^_^)v



そんな文面のメールが届いたのは昨日の事だった。


断ってもよっぽどの理由、例えば陽毬や冠葉のことだとか、

重要な用事が入ってない限り、結局はきっと彼女に押し切られてしまうのだろうから

僕にしてはすんなりとその要件を受け入れた。


神社の境内の方から太鼓や笛の音や、屋台の食材が火で炙られている香ばしい香りがしてくる。

だけど、暑い。

じっとしていても止まらぬ汗を腕で拭おうとした時だった。




「晶馬くん」




とっさに顔を上げると、そこには名前と同じ赤い色の浴衣を

さらりとした顔で着こなす荻野目さんがちょこんと佇んでいた。






「待った?」


「ううん…」


そう返しながら荻野目さんの全身像を、つい上から下まで見てしまう。


浴衣姿の女の子と一緒に会うことなんて滅多にないからなのか、

それとも荻野目さんに見惚れてしまっていたのか。

僕にはあまり分からないのだけれど、とにかくいつもとは違う雰囲気の彼女に

飲まれてしまいそうになる自分に気付く。




「えへへ、どう?似合うかな」


「に、似合ってるよ!いつもと違うから何かアレだね」




自分で言っといて少し恥ずかしくなったけど。

「調子狂う」

そんな言葉の続きはさすがに口に出す事はできなかった。




「晶馬くん、あたしちょっと浴衣と下駄に慣れてなくて…一回座ってもいい?」

「いいけど…大丈夫?」

「あ、大丈夫!小股で歩くのに疲れただけだから」



そういって橋の袂に僕らは並んで座り込んだ。

空気は暑いけれど、時折吹く風は気持ちいい。

暫くの間沈黙が続いて、僕はぼんやりと音頭の音を聞いていた時、



「手、繋いでくれないの?」


思わず僕は吹き出す。


「えっ…?!て、手?」

「だって男女が二人で夏祭りに、しかも彼女は浴衣でって言ったら繋いでくれるでしょ!手!」

「な、何それ…」



ただでさえ暑くて汗がじんわり噴き出してくるのに、僕は動揺してついにはだくだくと汗を掻き始めた。



「あたしと手繋ぐの、嫌なんだ」

荻野目さんのほっぺたが膨れる。

林檎飴みたいだ。


「嫌って訳じゃないけど…」


嫌じゃないしそれすらすっ飛ばした行為、

もとい人工呼吸という唇を重ねる経験があるからか、妙な違和感を感じる。


荻野目さんは煮えきれない態度の僕を見て一息ついた。




「じゃあ、あたしと手繋いで下さい」


急な丁寧語にどきんと鼓動が跳ねる。


「この夏は一度きりなんだよ。楽しもうよ、晶馬くん」



小首をかしげて僕に語りかける荻野目さんを、流石に無視はできない空気で。




「ちなみに陽毬ちゃんと冠葉くんも来られるようになったから、手を繋ぐなら今のうちだよ」

「えぇっ!?」







僕の手が君の手に触れるまで、あと―――

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